【神道に則った上棟式の様子、クボデラ株式会社】
今回は神棚の話題は一休みして、神棚を祀ることと同じように、住宅を建てる際に行われる大切な神事「上棟式」についてご紹介いたします。
上棟とは、柱や梁を組み上げていき、最上部の構造材である棟木(むなぎ)を上げることです。木造住宅における棟木とは、屋根小屋組の最頂部に桁(けた)方向に用いられる横架構造材で、小屋組頂部の重要な連絡部となり、垂木(たるき)の支持端となります。一般に小屋を組み上げて棟木を上げるとき上棟(じょうとう)式が行われます。棟上げ(むねあげ)、建前(たてまえ)とも呼ばれます。近年は、伝統的な上棟式を営むことが少なくなっていますが、今も上棟式を大切にするビルダー、工務店は少なくありません。
建物を建築する前の地鎮祭、そして無事に家が建つことを祈念する上棟式は重要な節目の儀式です。執り行うかどうかは施主様の考え方次第ですが、屋根裏の柱梁に棟札や上棟飾りを取り付け、神職に祝詞を上げていただくことで、名実ともに自分の城が建つことを実感する大切な機会だと思います。市販の「上棟セット」を用いた簡略化された上棟式もあり、それぞれのやり方で、工事の無事を祈念することをご提案します。
上棟式は住宅の骨組みを見てもらう機会です
木造軸組では棟木を棟に上げるとき、鉄骨造では鉄骨工事が完了したとき、鉄筋コンクリート造では躯体コンクリートの打ち込みが終了したころに行います。
魔よけのための幣束(へいそく)を鬼門に向けて立て、四隅の柱に酒や塩、米などをまき、天地四方の神様を拝ます。 地域によっては、餅やお金(硬貨)をまくところもあります。棟札には上棟年月日、建築主などを書き、棟梁が一番高い棟木に取り付けます。
元々、棟梁が建物の完成するまで、災いが起こらないように祈願するものでしたが、現在では建主が、工事関係者に気持ちよく仕事を進めてもらうためのもてなしの意味が強くなっているとも言われております。
住宅会社、工務店のなかには、略式であっても上棟式を大切にしているところがあります。上棟式は住まいの構造材を多くに人に見ていただく唯一の機会をいっても良いからです。施主様(建て主)と施工業者の名前を記した御幣を柱に飾ることで、その住宅に対する施主の思い、施工業者の責任を感じる機会でもあります。
上棟式後には直会(なおらい)といって、住宅完成までの工事の無事を祈願し、工事関係者、ご近所の方をお招きし、宴席を設け、お施主様と一緒に上棟を祝うのが慣わしとなっています。お施主様にとっても晴れがましい式であり、工事に関わった人が一同に会し、今後の工事の安全を祈願し、お互いの協力の元に家をつくり上げていこうとする意思表示の会でもあります。
【小屋裏に設えた上棟飾り、クボデラ株式会社】
地域によって神事は異なりますが、正式な上棟式は、宮司などの神職にお越しいただき、上棟式を取り仕切ってもらいます。
神事の主な内容は、着座(ちゃくざ)、修祓(しゅうばつ)、降神(こうしん)、献饌(けんせん)、大祓詩奉唱(おおはらいしほうしょう)、祝詞奉唱(のりとそうじょう)、清祓い(きよはらい)、槌打の儀(つちうちのぎ)、玉串奉典(たまぐしほうてん)、撤饌(てっせん)、昇神(しょうしん)、退下(たいげ)の順に執り行われます。
槌打の儀では、棟上の祭壇に上がり、施主の掛け声のもと、槌音も高らかに、大工が棟木を差し込んでいきます。神事の後、近所の方々をお招きし、餅撒きが行われます。
【クボデラ株式会社が施工した住宅の上棟式】
伝統を引き継ぎ、職人技術を継承する
先ごろ、埼玉県の木材建材販売及び住宅等施工を行う会社が手掛けた伝統構法による木造平屋建て住宅の上棟式に伺いました。同社の創業者が施主となり、神道に則った作法で厳かに上棟式が営まれました。
三色の布で巻かれた神籬(ひもろぎ)や天と地を向いた弓が設けられた棟上の祭壇に、神主、施主、大工、職方などが上がり、玉串を奉奠した後、施主の掛け声に合わせて、棟木を棟に打ち付ける「槌打の儀」が執り行われ、最後に棟上に上がった関係者による餅撒きが行われました。餅撒きには取引先や近所の人たちが大勢集まり、歓声を上げて餅や菓子などを手にしていました。
施主でもある木材販売会社の代表は、「今どき、伝統構法による木造住宅はほとんど見られず、作法に則った上棟式もまず行われません。しかし、こうした伝統を残すこと、大工職人の技術を継承することは大変重要なことだと思います」と語ります。
この木造住宅は、木造平屋建てながら、最高高は8㍍近く、敷地面積50坪、建物面積23坪です。すべての建築材料は長年養生在庫してきた半製品から供給しました。施工は同社の大工集団が、手の空いた時に工事を進め、完成に2年を要しました。
【無垢の木材だけを使用した伝統構法の木造平屋建て住宅】
材料は養生在庫などから取り揃え、施工も同社の腕の良い大工が構造、下地、内装、建具など、すべての木工事を受け持ちました。真壁構法の構造材はすべて大工の手刻みとしました。高めの布基礎に青森ヒバ土台を敷き、土台の合間に栗の束を入れ、布基礎の床下には防湿、消臭のための木炭袋詰めを全面に敷いてあります。柱は埼玉県産桧5寸角を隅柱とし、他の管柱は桧4寸角、大黒柱2本は紀州産桧8寸角を用いました。平屋建てなので通柱は使用していませんが、柱は2間を基本としており、小屋裏現しの居間は6㍍ほどの高さがあり、広々とした空間を実現しています。柱間は、桧30×120㍉貫を落とし込んだ後、ホゾを打って締める貫構法です。
梁は県産材の桧、杉を使用し、小屋裏は埼玉県産材の杉太鼓梁を3層に重ねた牛梁方式で、大きい太鼓梁は7・5㍍長、末口径300㍉、屋根回りは杉原板450㍉を使い、走り(むくり)破風45×300㍉に仕上げました。屋根瓦は埼玉県の深谷一文字瓦で葺いています。
断熱材を使用せず、屋根は杉30㍉厚下地に通気層をとり、さらに30㍉厚の杉板を張ってあります。壁面も同様で、杉30㍉厚をラス下使いとし、さらに30㍉厚の杉板を張り、外壁仕上げはモルタル3回塗り10㍉厚で仕上げました。床も杉30㍉厚を捨て張りした上に、30㍉厚の杉無垢フローリングとし、特に居間の床は千葉県・山武杉160×300㍉を雇実(やといざね)加工して300㍉角の市松張りとしました。
内装及び建具・家具類もすべて大工の手加工です。浴室は木曽桧無地板で誂えた浴槽、壁面は下段に桧無地と節板を用い、上段は青森ヒバ無地板で仕上げました。隣の洗面室も大工手作業で壁面は青森ヒバを市松に細工しています。キッチン収納、キッチンキャビネット、天井板も県産杉で製作しました。戸はすべて木製引き戸とし、床の間と居間に面した縁側も山武杉板30㍉厚を使っています。障子も手づくりで、障子紙は埼玉県の小川和紙を用いました。開口部は特別仕様の木製サッシで、サッシ枠のみ、油分の多いラオス桧(古代桧)を使用しています。床の間と居間を隔てる引き戸も杉板を洗い出し浮造りで製作、床柱は杉変木、落とし掛け、落とし框はエンジュを誂えました。
お祝いの儀式に相応しい上棟セットを用意しました
簡略化された上棟式は、棟木があがったあと、棟札をあげ祭壇を設け、棟梁が祝詞を奏上し拝礼し、続いて施主が拝礼します。簡略化された上棟式では、棟梁の手で、棟木の上部に吹流し等の飾り物を上げ、祭壇に御幣・枡、神饌物を飾り、棟梁が建物の四隅の柱に水・塩・米・酒をまいて建物を清めます。棟梁の祈願の後、続いて建主さんや関係者が祭壇前で二礼二拍一礼します。
クボデラ株式会社では、神道に則った上棟式に欠かすことのできない上棟品を、どなたでも手軽に組み立てられるセットにいたしました。祝いの儀式にふさわしい、心を込めた一品です。https://www.kubodera.jp/joto/
セット内容は、幤芯(1本)、箱入り小物1箱=竹製扇(針2本入り)、しめ(紅白1対)、しめ(白大1対)、しめ肩骨、麻紐(極太)、上棟式用祝詞、寿の祝紙、水引き(紅白2本)、ビニール袋(雨天用)、白紙。1セットより、すぐにお届けいたします。
上棟の飾りは、屋根裏のはり柱などにくくられ、そのまま残されます。あの有名な映画「となりのトトロ」のワンシーンにも上棟のお飾りが登場していました。「となりのトトロ」では「まっくろくろすけ」と呼ばれていたすすわたりが、逃げ込んだ屋根裏の奥、暗がりの中にお飾りが、一瞬ですが登場します。
歴史的建造物の改修工事では棟札を読むことで、その建物の来歴、由緒、建築年月日、棟梁など施工にかかわった職人、改修記録、施主などを知ることができ、建築史料ともなります。現存する棟札では、1122年の中尊寺のものが最古だそうです。そうした歴史的建造物でなくとも、上棟式で取り付けられた上棟飾りはその家の大切な記録として残り、改修等の際に棟札を読み返せば、住宅を建築した当時の記憶が呼び覚まされるのではないでしょうか。
【棟札】