皆さんの家庭では、神棚はありますか?
稀に神棚を半紙で覆う機会があります。
半紙で見えないようにするのを「神棚隠し」、または「神棚封じ」といい、神道における「死」への考えに基づいておこなわれています。
神棚封じのことは名前だけ聞いたことがあっても、やり方などが詳しくわからなかったり、いつまでやればいいのかわからなかったりしますよね。
神棚封じ(かみだなふうじ)についてご紹介していきましょう。
Contents
1.神棚封じの意味
神棚といえば神様が宿っている神聖な場所として、家の高い位置に飾って毎日榊や食べ物などを供えていると思います。
仏教であれば仏壇を置くように、神棚は家庭を守ってくれる神様の住処なのです。
そして神棚封じとは、家族が亡くなった時、「死」という「穢れ」と神様のいる神棚が接触するのを防ぐためにおこなわれる行為のことです。
「穢れ」のイメージは割とネガティブで、「汚いもの、縁起が悪い」と思われがちですが、死の「穢れ」は家族がなくなったことで周囲の人間が気落ちをしてしまい、生命のエネルギーが一時的に弱くなって気落ちすることを指します。
神様が宿る神聖な場所なので、死の穢れよる生命エネルギーの低下との接触を避けるために行うのですね。
身内がなくなると、新年が明けても初詣に行くのは遠慮するのがマナーですが、これも神棚封じと同じ意味合いを持っています。
身内が死亡してしまい、周りの人間は悲しみのあまり気落ちして「穢れ」が出てきます。
神様に穢れを向けずに済ませる目的で、神棚封じがおこなわれるのです。
※「現在は神道を信仰しているわけではない」
という場合でも、神棚があれば神棚封じを行った方がよいでしょう。
仏教を信じている場合であっても、そこに神棚があるかぎり、神棚封じを行うことが基本です。
2.神棚封じの目的
神道において、神棚は非常に重要な役目を持つものです。
ここには神様が祀られていると考えられており、不幸事があった際には、その神棚に穢れが及ばないようにと願い、神棚を封じるのです。
ちなみに、神棚は家庭にだけあるものではなく、会社などでも神棚を祀っているところがあります。
家の高いところ(天井付近)に祀ることが多く、ここに
榊(さかき。サカキ属に分類される植物のこと。神式の葬送儀礼などにおいてもよく用いられるものであり、神道において重要な植物。なお、仏教でよく使われる「樒・しきみ」としばしば混同されることがあるが、まったくの別物です)
や
神饌(しんせん。神様にお供えするもの。神棚にお供えするものは特に水や米、塩を指す。また、葬送儀礼においてはそれ以外の海や山のものを指すこともある)をお供えします。
神道においては、死を「穢れ」ととらえます。このため、この「穢れ」が、大切な神様のところにまで行かないようにするために、忌中は神棚封じをするのです。
ちなみに、神棚封じは、半紙を張り付け、神棚の扉もしっかり閉めるようにします。こうして、神様に穢れが及ばないようにするのです。
3. 穢れとは
「神道においては、亡くなった人は子々孫々を守る神様になってくださる」ということを考えれば、死を「穢れ」「汚いもの」「避けるべきもの」と考えるのは、どうにも違和感があると思う人も多いのではないでしょうか。
ご先祖様が旅立ち、自分達を守ってくださるというのに、そこに「穢れ・汚いと当てはめるのは、納得がいかないと感じることでしょう。
ただ、ここでいう「穢れ」とは、「汚いもの」「汚物」という意味ではありません。
これは本来、「気枯れ(けがれ)」と表すべきものです。
神式においては、人は神様から神気をいただくと考えます。
この神気が枯れてしまった状態を「気枯れ」とし、その状態が神様に及ばないようにと考えるわけです。
そのため「死は汚いものだから、神様に及ばないようにしよう」という考え方で、神棚封じを行うわけではないのです。
このような「気枯れ」の考え方は、神棚封じだけではなく、ほかの葬送儀礼にも表れています。
仏式の葬儀においては、葬儀を行う場所として「菩提寺」が選ばれることもあります。
これに対して、神式の場合は、結婚式(ハレの日、めでたいもの)は神社で行うことがありますが、葬儀は決して神社では行いません。
4. 神棚封じの正しいやり方
身内が亡くなった時、神棚への半紙による封じ方は、正しくおこなうことが重要です。
神道は神様が関わっているため、間違った方法でおこなうと神様に対して失礼にあたります。
正しいやり方について、順序を追って説明していきましょう。
① 神様に報告
神棚封じをする前には神様にひとこと伝えておかないと、神様からしたら、知らぬ間に隠されてしまって嫌な気持ちになってしまいますよね。
神様がなぜ半紙で隠されたのかを伝えるため、半紙を貼り付ける前に、死亡した人の名前を伝えておきます。
事前に言っておくと神様側からしても「〇〇の死去で近づいてこない」と納得がいくと思います。
②神棚のお供え物を撤去
神棚には毎日神様へのお供え物として、お米や果物などの食べ物が供えられていると思います。
神棚隠しをする前に神様に亡くなった人のことを伝えたら、まずはお供え物の食べ物を片付けておくと良いですね。
神棚の左右に供えられている榊も取り払い、神棚をスッキリとさせてください。
半紙を取り去って元の生活に戻るまでは、お供えは全くせずに、近寄らずに生活していきます。
今まで毎日神棚に向かっていたのに、急にやめてしまって大丈夫なのかと思いますよね。
神道の考え方にとってはお参りを一時中断してしまうよりも、穢れを神様に近づける方が、縁起が悪いとされているのです。
③扉を閉める
いつも神棚の扉は開放している状態ですが、神棚隠し中扉はしっかりと閉めるようにしてください。
扉をしっかり閉めるために、周辺においてあるものは全て撤去します。
神棚を閉じたら半紙を使って、名前の通り「神棚を一時的に隠す」のです。
④神棚隠しで気をつけること
半紙を貼らなければなりませんが、付ける時に守りたい注意点を把握しておきましょう。
つける時にはより強力にくっつけたいと、画鋲やピンなどを使ってしまいたくなります。
実際画鋲などの方がしっかりつくことは間違いないのですが、神棚は神様のいる神聖な場所なので、先の尖ったものを突き刺すというのは縁起が悪いため、避けた方が良いです。
貼り付けて隠す時には、すぐに剥がせるテープで貼り付けるようにしてくださいね。
神棚にしめ縄をつけている場合は、しめ縄にテープで半紙を貼り付ければ神棚をバランス良く隠すことができます。
⑤神棚封じをおこなうのは誰?
神棚を隠すのは誰が適任かと、悩んでしまいますよね。
実は身内のひとりが死亡したあとは、一家が穢れを持つため、全くの他人がおこなうのが良いとされてきました。
今は神棚を半紙で隠す人に特に決まりはないと、考え方が変わってきました。
通夜葬儀などで忙しい中、他の人に頼むのも大変ですからね。
5.神棚封じ期間
神棚封じをおこなったとき、期間はいつまでなのか気になるところですね。
神道の世界では50~100日の間に埋葬がおこなわれ、それぞれ五十日祭と百日祭という名称を用います。
埋葬する際は埋葬祭が実施されますが、最近では五十日祭と一緒に埋葬祭をすることが増えてきました。
神棚を隠している間は「喪に服すとき」ですが、実は昭和22年までは喪に服する日数は、親族ならば50日と決められていたのです。
喪に服する期間を定めていたのが「服忌令」で、決まりに従って家族が死亡した後50日までは神様を穢れから遠ざけて生活します。
穢れから隠している期間を「忌中」といって、50日が過ぎたら「忌明け」となって神棚隠しを解除して、いつもの生活に戻っていくのです。
神棚封じをしたらその日のうちにカレンダーを見て、50日後に印をつけておくと良いでしょう。
6. 忌中と喪中の違い
「喪中」もまた、基本的な考え方としては「忌中」と変わりません。
故人を思い、喪に服すことをいいます。
この「喪中」は、「忌中」よりも期間が長く、1年程度とされることが多いです。
「喪中につき、新年のご挨拶を遠慮させていただきます」などの喪中欠礼のハガキをもらったことのある人も多いのではないでしょうか。
なお、仏教でも、浄土真宗の場合は本来「忌中」「喪中」という考え方は存在しません。
なぜなら、浄土真宗の考え方では、仏様を信じていてなくなった人はすぐに成仏すると考えるからです。
ただ、「なんとなく抵抗感があるので」ということで、喪中ハガキなどを用意する人もいます。
7. 神棚封じの解除は忌明けが目安
この「忌中」「喪中」の考え方は、神棚封じにも大きな影響を与えます。
神棚封じが基準とするのは、「忌中」であり、「喪中」ではありません。
つまり、50日を過ぎたら神棚封じを解くのが基本的な考え方なのです。
喪中(1年程度)の間中、ずっと神棚封じをしなければならないというはありません。
準となるのは、あくまで「忌中」です。
8. 神棚封じをするときの注意点
神棚封じをするときの注意点について取り上げます。
途中で開封した場合はお塩で清めて改めて封印する
「忌中まで神棚封じをしなければならないものだとは知らず、葬儀後神棚封じを解いてしまった」という人がいるかもしれません。
神棚封じも、ほかの儀式も、普段の生活のなかにはないことですから、間違いは往々にして起こりうるものです。
間違って神棚封じを解いてしまったとしても、あまり問題はありません。この場合は塩を使って自分を清めた後、再びテープで半紙を貼りつければよいのです。
これで神棚封じは続いていることになります。
仏壇を封じるのは神棚封じと意味が異なる
「神棚封じ」は非常に宗教的な意味合いが強いものですが、「仏壇を封じること」は神棚封じほどの強い宗教色は持ちません。
神棚封じの場合は「神様に穢れが及ばないように」と行われるものです。現在でこそかなりフレキシブルに考えられるようになりましたが、
- 報告をしてから閉める必要がある
- 普段はしていないこと(半紙を下げるなど)が必要となる
- 本来は、穢れの影響を受けていない第三者が行う必要がある
- 忌中(神道の考え方によるのであれば、50日間)は開かない
という決まりがある
これに対して、仏壇を閉める場合はこのような厳格なルールは存在しません。
人が亡くなった後でも、原則として仏壇は開けたままで構いません。
ただ、「仏壇とは、小型のお寺である」とする考え方もあるため、「お寺が朝に開いて夜に閉まるように、仏壇も朝に開けて夜は閉める」という家庭もあります。
ほかにも、「ほこりが入るのがいやだから閉じておく」「閉めっぱなしにしておくと湿気がこもりそうだから開けておく」と判断する人もいます。
「小型のお寺だから、朝に開けて夜に閉める」という考え方に関してはやや宗教的な色がみられますが、それ以外の部分では「手入れのしやすさ」が表に出てきています。
このように、神棚封じと仏壇を封じることは根本的にもまったく違うものなのです。
9. 神棚封じの解き方
神道の場合には、一般的に 五十日祭と呼ばれる行事を終えたら神棚の封印を解いても良いとされています。
また、仏式において神棚封じを行なった場合にも、封印を解くまでの期間に神式との違いはありません。
仏式における忌明けは四十九日であるため、間違えないよう注意が必要です。
50日が経過したら、 正面に貼り付けた白い半紙をそっと剥がし、神棚の扉を開けて元の状態へ戻し、 封印を解きます。
封印を解いて扉を開いたら、神棚封じ前と同様にお供えを用意するようにしましょう。
神棚を封じる際と同様、封じを解く人物に悩んでしまう方もいるでしょう。
四十九日法要にかけての全ての段取りを葬儀社へ依頼しているというケースでは、葬儀社の方が中陰祭壇を片付けるのと同時に、神棚を封じていた半紙も一緒に撤去してくれることがあるため、その際には親切に甘えてお願いしてしまうのが良いでしょう。
しかし、実際には四十九日法要まで葬儀社が関わってくるというケースは少なくなっています。
実際、神棚封じの手順を第三者に行なってもらったからといって、自らで封印を解いてはいけないというわけではありません。
依頼相手がいない場合には、自身で半紙を撤去して構いませんし、実際自身で行うケースの方が多いようです。
10.まとめ
神棚封じについてまとめましたが、それぞれの地域や神社、さらに家庭によってもその作法や考え方は異なります。
この記事では、神棚封じの由来をはじめ、その方法や他の知識についても紹介してきました。
この記事を参考に、古来から日本に伝わる神道での行いについて、少しでも皆様の理解が深まることを祈っています。